再生不良性貧血について
1. 再生不良性貧血とは
再生不良性貧血は血液中の白血球、赤血球、血小板のすべてが減少する疾患です。この状態を汎血球減少症と呼びます。重症度が低い場合には、貧血と血小板減少だけがあり、白血球数は正常近くに保たれていることもあります。白血球には好中球、リンパ球、単球などがあり、再生不良性貧血で減少するのは主に好中球です。これらの血球は骨髄で作られますが、本症で骨髄を調べると骨髄組織は多くの場合脂肪に置き換わっており、血球が作られていません。そのために貧血症状、感染による発熱、出血などが起こります。
2. この病気の原因はわかっているのですか
骨髄中の造血幹細胞が何らかの原因で傷害されて起こる病気です。造血幹細胞とは骨髄中にあって、赤血球、好中球、血小板の基になる未熟な細胞です。赤血球、好中球、血小板は骨髄で完成すると血液中に放出され、その後赤血球は約120日、好中球は半日、血小板は約10日で壊れます。健康な人では造血幹細胞からこれら3種類の血球が絶えず作り続けられて、毎日壊れた血球分を補っています。再生不良性貧血ではその造血幹細胞が何らかの原因で傷害されるため、3種類の血球が補給出来なくなっています(図1)。
再生不良性貧血の病態 再生不良性貧血には生まれつき遺伝子の異常があって起こる場合とそうでない場合があります。生まれつき起こる(先天性の)再生不良性貧血はごくまれな疾患で、その多くは、人の名前が付けられたファンコニ貧血という病気です。後者は後天性再生不良性貧血と呼ばれ、実際にはこれが大部分を占めます。 後天性再生不良性貧血には何らか原因があって起こる場合と原因不明の場合があります。約80%の例は原因不明です。残りは薬剤・薬物、放射線、ウイルスなどが原因として疑われています。原因不明の例を特発性再生不良性貧血と呼び、原因のある例を二次性再生不良性貧血と呼びます。 特発性再生不良性貧血の大多数は自己免疫的な(免疫を司る細胞が自分の細胞を攻撃する)機序による造血幹細胞の傷害が原因と考えられています。免疫というのは、外からの細菌やウイルスの感染を防ぐための体のしくみであり、主に白血球の中のリンパ球が担当しています。一方、自己免疫反応とは、このしくみが何らかの原因で変化した結果、リンパ球などが自分自身の細胞を傷害するようになることを指します。その結果起こる病気は自己免疫疾患と呼ばれています。特発性再生不良性貧血においては、造血幹細胞が自分自身のリンパ球によって傷害されると考えられています(図1)。ただし、すべての特発性再生不良性貧血がそのような自己免疫反応によって起こっているわけではなく、一部の例では造血幹細胞自身の異常が原因と考えられています。
3. この病気ではどのような症状がおきますか
赤血球、好中球、血小板の減少によってさまざまな症状がおこります。赤血球は酸素を運搬しているため、その減少によって酸素欠乏の症状が起こります。酸素欠乏は主に脳、筋肉、心臓に起こります。脳の酸素欠乏でめまい、頭痛が起こり、筋肉の酸素欠乏で身体がだるくなったり、疲れやすくなったりします。心臓の酸素欠乏により狭心症様の胸痛が起こることもあります。それ以外に、身体の酸素欠乏を解消しようとして呼吸が速くなったり、心拍数が多くなったりします。呼吸が速くなったことを息切れとして感じ、心拍数が速くなった状態を動悸として感じます。赤い赤血球が減るため顔色も蒼白になります。 白血球のうち好中球は主に細菌を殺し、リンパ球は主にウイルス感染を防ぎます。したがって、好中球が減ると肺炎や敗血症のような重症の細菌感染症になりやすくなります。 血小板は出血を止める働きをしているので、少なくなると出血しやすくなります。よく見られるのは皮膚の点状出血や紫斑です。それ以外に鼻出血・歯肉出血や、血小板減少がひどくなると脳出血・血尿・下血などが起こります。